[読了] ファスト&スロー(上)
2025/10/14

masyus
ファスト&スロー(上)を知ったきっかけ
2025年9月2日に増田亨さんが登壇した「技術書を「血肉」に変える 、ITエンジニアの学習戦略」のconnpassイベントに参加した際に紹介されたのがきっかけです。増田さんの言葉ではファスト&スローそれぞれの思考のことを「速い思考」と「遅い思考」と呼ばれていましたが、それらの思考がどのようなものかを行動経済学の観点から理解を深めたいと思い、この本を手に取りました。私は行動経済学に関する知見がほとんどない状況だったため、本書でその一端が理解できればと思った次第です。
ファスト&スロー(上)を読むことで得たい・期待したいこと
私の中では下記2点を期待しました。
- 速い思考と遅い思考の特徴と、普段の生活における使い分け方
- 学習力を強化するにあたり、速い思考と遅い思考をどのように活用するのが効果的か?
特に2.の比重が個人的には大きく、仕事+αで様々な学習を重ねるにあたり学習効率を如何にして上げるかに課題を持っています。
実際に読んでみて
本の読みやすさ
- 日本語の難しさはなく、読みやすかったですがボリュームはあります
- 内容の大半は認知テストの結果や事例の列挙で占められており、適度にスキップしながら読むくらいが丁度良いかもしれません
期待値との差分
半分期待通りで、半分期待外れでした。内訳は以下になります。
- ⭕️ 速い思考と遅い思考の特徴と、普段の生活における使い分け方
- ❌ 学習力を強化するにあたり、速い思考と遅い思考をどのように活用するのが効果的か?
本書は1.に関して様々な検証を行いその結果を解説する内容のため、2.は言及されていませんでした。2.の内容は別の書籍で補完する必要がありそうです。
個人的な新たな気付き
本書の中では「速い思考」と「遅い思考」をそれぞれ
- 速い思考: システム1
- 遅い思考: システム2
と呼んでいます。私たちが日頃から無意識に活用している思考のシステムの大半はシステム1であり、システム1が取り扱う情報の内容は熟考を要するシステム2とは異なり誤差を多く含むということを知りました。
この誤差はバイアスとも受け取れるかと思いますが、認知バイアスを受けた行動は、自分が気づけないくらい自動的に行われてしまうことを知りました。私たちは他人の行動を冷静に分析することはできますが、自分の行動は自身を客観的且つ冷静に分析することができないことが多いと感じます。私も日頃から可能な限り自分自身を客観的に見るよう努めてはいますが、人間の認知のメカニズムを考慮してより客観的に自分自身を注意深く観察する、もしくはシステム1の精度を高めるなどの対処が必要だと感じました。
それにしても、本書の内容を踏まえると
「物事の何が真実で、何が幻想なのか?」を判断することの難しさ
を感じます。私たちは日頃から多くの情報をインターネットから得ており、その中には真実でない情報も多分に含まれています。この状況に対処するには多少脳に負荷をかけても良いのでシステム2を使うことで多くの1次情報を収集・分析し、日頃から学びを積み重ねる以外にないと考えています。また、安易に理解しやすい情報に飛びつき、迎合するのもよろしくないと思いました。改めて学び続けることの意義を感じます。
もう1つ新たな学びだったのはヒューリスティクスです。経験則や直感に基づいた、正解にたどり着きやすい「発見的手法」のことで、常に正しいとは限らないが迅速且つ小労力で判断を下すことができるものと捉えています。本書ではシステム1,2の次に頻出する単語で印象に残ったのですが、私の理解としては
ヒューリスティクス ≒ システム1
ではないかと思いました。
ファスト&スロー(上)を誰に勧めるか?
- 行動経済学について興味がある方、もしくは研究したいと考えている方
- 脳内における思考や判断、意思決定のメカニズムに興味がある方
が読むと学びが多いのではないかと思います。私の場合は後者に該当しましたが、主に前者の方が読むほうが実りが多くありそうです。
感想
久しぶりにボリュームのある本を読みましたが、本書は読み進めるほどに、自分の行動を振り返った時に
「なるほど、そういえばそうかも」
と感じる点が多くありました。また、直感や論理を決めるプロセスの複雑さを知り、それらをなるべく簡潔に実行できるようにするために人は進化の過程でシステム1,2のような分け方をして情報を処理するに至ったことに驚きました。本書を読んで私は行動経済学をさらに学びたいと思うようになりました。
他方、インターネットが普及して情報を取得する機会が格段に増え、且つAIの進化が進んでいる現在、システム1,2の構成で人はどこまで上手に世界を把握し、より正確な判断を下せるようになるのかが不安に思いました。既に私たちは様々なデマに踊らされつつあり、時には生成AIですらその一端を担っています。本書を読み、情報をインプットすることだけでなく情報をアウトプットする在り方についても考えさせられました。